不動産法務

温泉付別荘地の管理会社に温泉権が認められた事例

事案

 温泉付別荘地の別荘地オーナーが、管理会社に対し、別荘地内に掘削された7つの源泉に関する温泉権(温泉採取権・源泉権・湯口権)は別荘地オーナーの共有であると主張して、その共有持分の確認を求めて訴訟を提起したという事案です。なお、同訴訟において、当事務所は管理会社側の代理人を務めました。

当事者の主張

 本訴訟では、別荘地オーナーが、温泉付別荘地とともに源泉地(掘削により温泉が湧出している土地)も購入したはずであると主張した上で、温泉権は源泉地と不可分一体のものであるから、源泉地とともに温泉権も別荘地オーナーが購入したはずであると主張しました。
 これに対し、管理会社側は、仙台高裁昭和63年4月25日判決・判タ606号109頁が示した「人工的に土地を掘削して温泉を地表に顕現させ採取可能な状態を現出させた場合の源泉に対する権利は、その加工のために多大の資本を投下するのが通常であるうえ、地盤自体のもつ経済的価値とは別に、それ自体独自に格段に高度の価値を有し、社会的な見地からも地盤とは別個の取引客体と観念されているものと思料されること等に照らし、地盤たる土地所有権と離れた別個の権利であり、権利者の排他的支配に服するものと解するのが相当である」との判断を引用し、温泉権は源泉地と不可分一体のものではないとして、別荘地オーナーが有しているのは温泉権ではなく温泉利用権にすぎないと反論しました。

第一審判決

 第一審判決は、管理会社の代表者らが温泉掘削の許可申請を行い、実際の温泉水の利用は、専ら管理会社が別荘地オーナーから使用料を徴収して排他的に管理しようとしていたものであり、保健所の管理する温泉台帳上の温泉採取権者の届出名義も管理会社に変更されていたことなどから、源泉地から湧出する温泉水については、源泉地の所有権とは区別された湯口の専用権(温泉権)が設定され、管理会社がこれを行使してきたものと認めるのが相当であるとして、別荘地オーナーの請求を棄却し、管理会社が温泉権を有していることを認めました。

第二審判決

 第二審判決は、別荘地オーナーは、造成された別荘地に温泉水供給管が敷設・設置され、温泉水が利用できる状態のものとして、販売会社と売買契約を締結して本件別荘地を購入したものであって、自ら開発資金を提供するなどして温泉を掘削したわけではないから、源泉地とは別個独立の温泉権を購入したものと解することはできないと判断しました。
 また、別荘地オーナーは、そもそも源泉地自体も購入したわけではないとして、源泉地と不可分一体の権利として温泉権を取得することもないと判断しました。
 以上から、第一審判決と同様、管理会社が温泉権を有していることを認めました。

コメント

 温泉ブームの高まりとともに、これまで全国各地で温泉付別荘地が開発されてきましたが、それと比例するように温泉に関する多くの紛争が各地で発生しています。
 これは、温泉の経済的・社会的な価値が高まったにもかかわらず、温泉や温泉権に関する法の整備がいまだに不十分であり、その法律関係が不明確であることが大きな原因であると考えられています(なお、日本には「温泉法」という法律はありますが、これは温泉の掘削に対する行政上の規制を目的とするものであり、温泉や温泉権に関する法律関係を定めたものではありません。)。
 このように温泉に関する紛争が生じやすい状況にあるので、温泉に関する法律関係(特に温泉権は誰に帰属するのかという点)は、温泉付別荘地の販売会社・管理会社・別荘地オーナーらにとっては重大な問題です。
 しかし、温泉に関する法律関係は複雑で専門的な内容になっていますので、温泉付別荘地を開発・販売・購入される際には、その契約関係や管理規約等に問題がないか、予め専門家のチェックを受けることが望ましく、また、万が一、紛争に発展してしまった場合には、早い段階で相談されることをお勧めします。

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