刑事事件

懲役刑の受刑者が、病気を理由に刑の執行停止を受けて釈放された事例

事案

 懲役刑が確定し、拘置所から刑務所へ移送される予定だった受刑者が癌に罹患していることが判明したため、刑の執行停止を申立てたところ、これが認められて外部での病院で治療するために釈放された事例です。

経過

 被告人は懲役1年の実刑判決を受け、控訴することなくこの判決が確定しました。拘置所から刑務所へ移送される予定でしたが、拘置所内の診察で癌の疑いがあることが判明しました。公判で弁護人を担当していた弊事務所に、本人からそのことを伝える手紙が届いたことから、弊事務所で刑の執行停止の申立書を作成するとともに、受刑者が癌に罹患している疑いがあることを証明する資料や、刑の執行停止後も治療に専念し、逃亡しないことなどを誓約する資料を収集・作成し、これらを添えて申立書を検察庁に提出しました。
 その結果、無事申立てが認められ、検察庁の指揮によって刑は一時停止され、本人は釈放されました。その後、家族に付き添われて病院で検査を受け、現在も治療を継続しています。もちろん検察庁へは家族から毎月状況を報告しています。

コメント

 刑事訴訟法482条1号は「刑の執行によって、著しく健康を害するとき、又は生命を保つことのできない虞があるとき」は刑の執行を停止することができると定めています。しかし、実際に刑の執行停止の事由があったとしても、受刑者本人がこれを主張して申立てをすることは難しく、実際にはあまりこの条文が適用されていないのが実情ではないかと思います。もちろん、簡単に刑の執行停止が認められるわけではなく、本件のように受刑者の生命に関わるような重大な事由がある場合などに限られます。
 通常、弁護人の職務は裁判で判決が出るまでというイメージがあり、特に懲役刑の実刑判決が確定した場合には本人に懲役に服してもらう以外にないと考えられがちです。しかし、本件のように実刑判決が確定した後も、弁護人に相談すべき事案は意外と多いことを忘れてはいけません。

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