刑事事件

痴漢冤罪事件で逮捕・勾留された被疑者が不起訴となった事例

事案

 満員の電車内で痴漢をしたとして突然駅員に引き渡され、そのまま警察官に逮捕されて勾留を受けたものの、準抗告申立てによって勾留が取り消されて釈放、最終的には不起訴となった事案です。

痴漢冤罪事件の問題点

 痴漢は決して許されない行為であり、厳格に罰されるべきものです。しかし一方で、身に覚えがない痴漢行為について逮捕・勾留され、自白を強要されて認めてしまい、罰金等の刑罰が科されてしまういわゆる痴漢冤罪事件も少なくないのが実態です。なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。痴漢冤罪事件には、以下のとおり手続的に多くの問題があります。

1)言い分・弁解を聞いてもらえないこと
 痴漢として駅員室に連れて行かれた場合、その場で言い分や弁解を聞いてもらえることはまずありません。駅員には言い分を聞いてどちらの言っていることが正しいかを判断する権限はなく、警察官に引き渡すしかないためです。駅にやってきた警察官もその場では言い分を聞いてくれず、そのまま警察署に同行されます。警察署で事情を聞かれますが、そこで身の潔白を主張したとしても、その間に被害女性から被害届が提出されてしまいますので、この女性の証言を根拠に逮捕されてしまいます。このように、言い分や弁解を述べることができるようになった時には既に逮捕の材料が揃ってしまっているのです。
 本件でも、自分はやっていない、誤解なのだから、きちんと話せば分かると本人は考え、特に抵抗もせずについて行ったところ、駅員からは何の事情も聞かれずに警察官に引き渡され、そのまま逮捕されてしまいました。

2)身柄拘束(逮捕・勾留)による不利益が大きいこと
 逮捕・勾留をされた場合、最も大きな問題が仕事のことです。特に会社員の場合、否認していれば起訴されるまでに最大23日間身柄拘束され、裁判になればさらに長期間勾留されることになるため、会社に対してどのように説明をするか、また説明をした場合に解雇されてしまうのではないかと、非常に悩ましい問題が生じます。
 本件では、弊事務所に相談に来た時点で既に勾留から数日が経っていたため、その時点で家族から会社に事情を説明していました。しかし、逮捕されたということで会社から不利益な処分を受ける可能性があったため、弁護人が会社の人事担当者と面談し、本人が否認し続けていること、刑事事件は裁判で有罪が確定するまでは無罪推定の原則が働くことなどを説明し、刑事処分が確定するまでは、会社でも不利益な処分をしないよう説得しました。

3)否認し続けるのが困難であること
 以上のとおり、本当に潔白であったとしても、数々の不利益を考えると自白をして罰金を払い、早期に釈放してもらうことを選択してしまう人も多くいると聞きます。例えやっていなくても認めてしまえば、数十万円の罰金を支払うだけで釈放され、会社や家族に知られることもなく、厳しい取調べに耐える必要もないからです。本件でも、不起訴となった後に本人から「弁護士さんがあの時に来てくれていなかったら、次の日には自白していたと思います」と聞きましたが、その言葉がとても印象に残っています。

結論

 本件では、家族から相談を受けたその日に接見に行き、事実関係を聴きとった上、直ちに裁判所に対して勾留決定の取り消しを求めて準抗告を申し立てました。この申立てが無事認められて、本人は釈放され、在宅で捜査が続けられることになりました。そのため、本件では比較的早期に会社に復帰することができました。
 その後も警察官や検察官との取調べの前後に弁護人と相談をして、決して事実と異なることは言ってはいけないことなどを伝えるとともに、弁護人も検察官と面談するなどして、本人の無実を訴えました。  その結果、本人の主張が認められ、無事不起訴処分を得ることができました。

対策

 このように痴漢冤罪事件では、言い分も聞いてもらえないまま、非常に孤独な状況に置かれてしまいます。そこで、できる限り早期に弁護人を依頼し、接見を行うことが重要です。また、家族や知人の存在も大きいですので、本当にやっていないのであれば絶対に認めてはいけないと励まし続けることが大事です。
 最近では、きちんとした定職に就いており、身元引受人もしっかりしている場合には、そもそも勾留請求が却下される場合もあります。そのためには逮捕直後から釈放に向けて動き始める必要があります。
 いずれにしろ迅速な対応をすることが無実の方を救う最善の手段であることを覚えておいて下さい。

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